2011年度 JAB 環境 ISO 大会 「地域社会と組織を支える環境 ISO とその将来展望~東日本大震災を乗り越えて~」 開催報告 (概要)
2012年3月21日
公益財団法人 日本適合性認定協会
本協会は2012年2月14日、東京都千代田区の有楽町朝日ホールにて、「JAB 環境 ISO 大会」を開催致しました。今年度は「地域社会と組織を支える環境 ISO とその将来展望~東日本大震災を乗り越えて~」をテーマに設定しました。
今年度の大会は二部構成とし、第一部では、ISO 14001 の次期改正の方向性について環境 ISO 活用組織へ情報提供を行い、改正規格への理解を深めていただきました。続く第二部では、環境 ISO 活用組織が、東日本大震災により新たに認識された著しい環境側面に対してどう対処したのか・しようとしているのか、環境 ISO の可能性について事例を紹介し、パネルディスカッションへ議論を展開していきました。
冒頭に本協会理事長 久米 均より開催挨拶を行ったのち、専務理事・事務局長 井口新一より、「認定・認証制度の最近のトピックス」と題した主催者講演を実施。国内外の認定・認証に関するアンケート調査結果の報告などに加え、マネジメントシステム認証の信頼性向上に向けた「MS 認証懇談会 *」の活動の概要を紹介し、認証組織の自主公開プログラムへの参加を呼びかけました。
* 国内のマネジメントシステム認定機関と認定を受けた認証機関で構成される
続く第一部では、規格の大改正が予定されている ISO 14001 の最新情報として、現在 TC207 で議論されている内容が伝えられました。
[第一部 ISO 14001 認定・認証制度の最新情報]
1. 特別講演 「ISO 14001 改正の概要と論点」
TC207/SC1 国内委員会 委員長 ・ 合同会社グリーンフューチャーズ 代表
吉田 敬史 氏
はじめに、増加を続ける第三者認証用マネジメントシステム規格の現状が示され、それらマネジメントシステム規格の共通要素と共通要求事項 (ISO ガイド 83 として検討) について解説を行い、参加者の共通認識を図りました。そして、次期 ISO 14001 改正は、ISOガイド83 が軸となることを説明した後、次期 ISO 14001 の具体的要求事項、共通用語、ISO ガイド 83 の提供ルール案などを紹介。さらに、ISO ガイド 83 と ISO 14001:2004 との対応、ISO ガイド 83 の EMS への適用上の論点について分かりやすい解説がありました。最後に、今後の改正スケジュールに触れたあと、規格を活用する組織の目線に立ち、今回の改正をどのように受け止めるかについてコメントがあり、単なる規格の技術的解釈にとどまらない、示唆に富んだ講演となりました。
午後からの第二部では環境 ISO を活用している組織による事例紹介が行われました。事例紹介に先立ち、今回の大会のコーディネーターである摂南大学 経営学部経営学科 准教授 山本 芳華 氏より、事例のポイントについて解説いただきました。はじめに、東日本大震災で被災した2つの組織から報告がありました。環境 ISO のシステムを活用して、被災による被害・汚染を食い止めることができたのか、被災地域での生産活動の再開や続く電力制限にどのように活用できたのか、環境 ISO の果たした役割は何か、などについて発表いただきました。また、組織全体の統合マネジメントシステムの事例として、1組織から発表がありました。
[第二部 東日本大震災を乗り越えて~地震・津波・原発事故・節電対応への EMS 活用に関する事例紹介~]
2. 事例 1
レンゴー株式会社 環境・安全衛生部 環境課 課長
山下 毅 氏
企業に包装資材として段ボールを提供している同社は、津波により仙台工場が壊滅的な被害に遭い、工場は閉鎖されたが、地域社会への復興・復旧支援のために同地域で新工場を立ち上げる計画であることを報告。地震には EMS 緊急対応手順が機能したが、想定を超える津波の際には同手順は十分機能しなかったことを反省点として挙げたものの、避難所には、プライバシー確保のための間仕切りや、簡易ベッドとして段ボールを提供し、緊急の支援活動を行ったことを紹介。また、同社はもともと「軽薄炭小」をキーワードに、生産時に CO2 の少ない段ボールをつくり、省エネルギー対策、電力削減によるコスト削減などを EMS の PDCA に落とし込み、様々な改善点に取り組んでいる、と述べました。薄くて軽く、リサイクル性の高い段ボールを提供することを同社の著しい環境側面と捉え、ライフサイクルを通じて CO2 排出量の少ない段ボールを被災地に提供することにより、東北地方の再生が環境負荷低減につながるよう推進していきたい、との決意が示されました。
3. 事例 2
太平洋セメント株式会社 生産部 副部長
生産管理グループ 兼 環境管理グループ グループリーダー
坂本 知也 氏
津波で被災し、その後復旧した大船渡工場において、東北地方における最大の問題である「災害がれきの処理」に前向きに取り組んだ事例について、震災当日の映像を交えながら報告。セメントをつくる窯を焼却炉として活かし、がれきを衛生処理・減容化し、かつこれら廃棄物を原燃料としてセメントをつくるトライアルチームを結成し、地域復興へ日々努力した経緯が説明されました。この方法は CO2 削減への貢献や、悪臭や衛生上の環境影響へも高い評価を得られるのでは、との意見を述べられました。大船渡工場は全てのマニュアル・資料類を津波で失ったため、ISO のシステム再構築にあたっては、企業が持っている中核となるマネジメントシステムの中に ISO のシステムを織り込む方法で、段階的にシステムを復帰し、効率化の図れる仕組みを構築したいとの展望が示されました。最後に、さまざまな企業のつながりの中での生産活動が、ライフサイクルコスト削減に貢献していれば、環境保全への貢献度をより高く評価してもよいのではないか、との提言を行い、講演を締めくくりました。
4. 事例 3
日産自動車株式会社 経営企画本部 中期経営企画部
グローバル環境企画オフィス 課長代理
田村 卓久 氏
昨年度、国内において統合 ISO 14001 認証を取得した際の活動事例を報告。はじめに同社の環境への考え方の基幹である、環境理念「人とクルマと自然の共生」と、目指す姿「シンシア・エコイノベータ」、中期環境行動計画「日産グリーンプログラム」を紹介。企業活動を行う際には、組織内の各ファンクションはバリューチェーン全体を見たうえで各々の課題・問題に取り組む必要があるため、より効果的な活動とするために、同社は統合 ISO 14001 に取り組んだという経緯を説明しました。統合に際しては一時的な工数上昇があったものの、当たり前のことを愚直にやり続けたことで、9か月で統合認証取得ができたこと、従業員一人一人環境マインドやリテラシーが一気に向上した、と述べました。また、これらの成果の背景にはトップの強い意志決定が大きく影響していたと強調されました。終わりに、統合認証への取り組みを通して、マネジメントシステム認証のあり方について4つの問いかけ 1) 認証取得が目的化していないか 2) 本来業務であるビジネスに直結させるための ISO 14001 の在り方が必要である 3) ISO 9001 とISO 14001 を別々に対応するという発想への疑問 4) 全てのマネジメントを包括的に対応することが必要である を行い、続くパネルディスカッションへの議論へ繋ぎました。
5. パネルディスカッション
「地域社会と組織を支える環境 ISO とその将来展望~東日本大震災を乗り越えて~」
プログラム後半は、山本氏、吉田氏、山下氏、坂本氏、田村氏に加えて IMS コンサルティング株式会社 取締役 顧問 寺田 博 氏および本協会常務理事・認定センター長 久保 真の7名によるパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションのポイントは以下のとおり:
- 地域社会を支える環境 ISO
- 組織を支える環境 ISO
- 環境 ISO と将来展望
これらの論点について、活発な意見交換がありました。
また、本大会初の試みとして、会場参加者全員に向けた「会場内アンケート」を実施。主な質問項目は、ISO 14001 の次期改正に当たって、
- ISO 14001 をより有効なものとするために何が重要な概念と考えるか
- 現在の ISO 14001 に追加又は改善するべきと考える事項は
複数の選択肢から回答を求める形式で尋ね、パネルディスカッション後半で集計結果を発表しました。
- パネルディスカッション アンケート・質問票 (PDF 113KB)
- アンケート集計結果 (PDF 82KB)
最後に、山本 芳華 氏より、今回の震災への対応でも明らかになったように、組織の維持・発展には、トップの強い意志表示と決断・対応が不可欠であることを述べ、本大会を締めくくりました。

本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 日本適合性認定協会
総務部 CS
E-mail. CS@jab.or.jp
Tel.03-3442-1210 Fax.03-5475-2780
認定センター CB
Tel.03-3442-1214 Fax.03-5475-2780