第1回 JABマネジメントシステムシンポジウム 開催報告(概要)
2013年4月4日
公益財団法人 日本適合性認定協会
本協会は2013年3月5日に「第1回 JABマネジメントシステムシンポジウム」を有楽町朝日ホール(東京都千代田区)にて開催いたしました。当日は、約400名に聴講いただきました。
メインテーマは「マネジメントシステムにおける最近の課題とその対応~ISO 9001改訂、複数マネジメントシステム規格、Annex SLを中心に~」です。
これまで本協会は、品質マネジメントシステムと環境マネジメントシステムのそれぞれの研究会を運営していましたが、複数のマネジメントシステム規格の効率的活用が組織及び認証制度の課題となっている状況を鑑み、今年度からはマネジメントシステム研究会を設立し、組織におけるマネジメントシステムのあり方を検討することとしました。
基調講演 ISO 9001改訂作業の現状と附属書SL
中央大学 理工学部 経営システム工学科 教授
中條 武志 氏
はじめに、制定から25年を経たISO 9001の功罪を振り返りながら、現在進められているISO 9001改訂作業の概要を解説。改訂では「製品の提供能力に関する信頼を向上させる・顧客を満足させる組織の能力を向上させるよう、顧客のISO 9001に基づくQMSについての信頼を向上させるようにする」を目指していると説明しました。さらに、改訂時には附属書(Annex) SLを順守することや、前回改訂時に反映できなかったコメントも検討されていると述べました。続いて、Annex SLはマネジメントシステム規格の整合化のために開発されたという背景の説明があり、その構造および適用ルールや、完全対応している実例としてのISO 39001が紹介されました。加えて、Annex SLの利点と欠点も示されました。これらの動向を踏まえ、マネジメントシステムの確立・再構築に向けて我々がなすべきことは、各分野における固有技術・固有技術を活用するマネジメント・認証制度の重要性をもとにした活動、それらの連携が不可欠であると述べ、各WGによる検討内容報告へと引き継ぎました。
続いて、JABマネジメントシステム研究会メンバーによる研究報告が行われました。
WG1 組織力を強化するISO 9001改訂~基盤としてのQMSとその推進力に着目して~
ビューローベリタスジャパン株式会社 テクニカル部 テクニカルアドバイザー
景井 和彦 氏
今回の規格改訂に対し、規格利用側からの議論をまとめるというWGテーマ設定の背景の説明があり、「組織のQMSからみたISO 9001要素」と「基盤としてのQMS、推進力としてのQMS」を着眼点としたことを述べました。これをもとに、ISO 9001への改善要望を5点挙げ、各項目について具体的に解説がありました。「基盤としてのQMS」については1) QMS構築の根拠を明確にする2) 行程設計、購買管理の要求事項を細分化・強化する3) 変更管理に関する要求事項を強化する、「推進力としてのQMS」では4) 組織を取り巻く状況を把握する5) QMSを事業プロセスへ統合する、に分類し、「Annex SLの影響を受けるので、リスク/機会の考慮及び予防処置の根拠を明確にしたQMSの構築となるべきだろう」など、項目毎にWGとしての提言を行いました。最後に、1) ISO 9001:2008規格は、一貫して確実に製品・サービスを提供し、顧客満足を達成することを目的に、経営者の役割、製品実現のプロセスに関して具体的に記述され、組織のQMS構築・維持に有益なツールである。2) しかし、いくつかの改善の余地があり、具体的に提言を行った。3) また、上位規格のAnnex SLの影響も検討し、それによってISO 9001の改善が促進されると思われる、と述べ、報告を締めくくりました。
WG2 複数のMS規格を活用する~複数のMS規格を活用したMSを構築・運用する際の考え方~
ヤマサ醤油株式会社 取締役 品質保証部長
五十嵐 誠 氏
複数のマネジメントシステム(以下MSという)規格を組織が活用する際に、組織のMSのあるべき姿を検討した結果を報告しました。まず、組織の目的は「持続的に利害関係者に価値を提供し続けること」と定義し、組織のミッション・考慮すべき環境、利害関係者並びにそのニーズ及び期待の例などを提示。MSの設計や運用次第で、これらニーズや期待に応え、かつ組織の成長につながる可能性があると述べました。続いて身近な製品を例に、複数のMS規格を運用する際の留意点や問題点を示し、WGとしてMSの構築モデルを提案しました。このモデルでは、MS規格の要求事項を参考にして自分の事業プロセス、もしくはそのMSを見た場合、機能が足りなければ追加し、弱ければ強化することで、MS規格を利用したMSが事業体に埋め込まれる、と説明。さらに、トップの目線からみたシステム構築の流れを想定し、それに対応して、「MS規格活用時の重要点」と「複数のMS規格の活用時の留意点」を整理し、まとめました。この中では、各MSに関連する側面で目的・方策が競合する場面での重み付け・優先順位が重要であると繰り返し述べました。また、構築したMSの有効性を審査時に組織が自ら実証する場合を想定し、有効性を評価する場合の観点を考察した結果を報告。最後に「組織の事業プロセスを強化するためには、複数のMS規格をツールとして身の丈に合った活用をすること」と述べ、WGとしてのメッセージを発信しました。
午後は、実際に複数のマネジメントシステム規格を適用しマネジメントシステム運用をしている事業者をお招きし、運用事例の紹介を行いました。
IMS運用による改革事例紹介
品質、環境、労働安全衛生への取り組み
株式会社堀場製作所 品質保証統括センター 品質改革推進部
山村 充 氏
同社の概要説明のあと、事業における「改革の3つの柱」を紹介。1) 中長期経営計画では経営戦略の再編成、2) IMS運用ではビジネスプロセスの再構築、3) 社員の意識改革を進める「ブラックジャック活動」が三位一体となって、思い描く未来・成長に進むと考えている、と述べました。続いて同社が複数のMSの統合からグループ会社のIMS運用に至るまでの経緯を解説。品質・環境・労働安全の3つを実効的に管理する目的で、マニュアル一本化と管理部門の統一でIMS、統合MS運用を始めたと説明。各組織の仕事は各々の責任を果たすという意味では一つであり、見る側面が異なるだけで別々のシステムで動くものではないとの考えが示されました。また、IMSの進め方では特に内部監査を重視していること、IMS運用の経験として運用によるメリット(シンプルなシステムによる早い意志決定が容易となった)・課題(内部監査の質向上)・デメリット(全体最適のために各職場での部分最適がより必要になる)などが述べられました。これらを踏まえ、2013年度の目標や、品質・環境・労働安全衛生それぞれに対する”おもい”と取り組みが紹介され、創立60周年を迎えた同社が発展を継続していくことが社会への貢献である、と締めくくりました。講演後、1) 「ブラックジャック活動」がどのようにシステムに組み込まれたのか 2) IMSにおける内部監査員の担当範囲 などについて、質疑応答が行われました。
コカ・コーラ独自の4側面を網羅したマネジメントシステム”KORE”の紹介
日本コカ・コーラ株式会社 技術・サプライチェーン本部 品質保証
松熊 宏幸 氏
コカ・コーラのシステムと同社独自のMS、”KORE(コア)”を基軸に講演いただきました。同社のシステムは「いつでも どこでも 誰にでも」のキャッチフレーズのもと、3つの使命「さわやか」「幸せな瞬間」「価値を創造し変化をもたらす」を果たすためのものであると述べました。続いて、2010年に導入された”KORE”について詳細に紹介いただきました。5段階構造となっており、レベル1から4がWHATの部分で方針・基準・規格・要求事項/検査方法で構成され、レベル5がHOW部分で作業手順と参照文書であると説明。さらに各レベルには「品質」「食品安全」「環境」「労働安全衛生」の4側面が含まれていることを図示し、CO2削減への取り組みなど、具体的な活動内容を紹介しながら解説しました。特に、同社が食品安全に深く関わっていることから、GFSI(Global Food Safety Initiative)の活動内容と、同社がサプライチェーンを通じてGFSI承認スキーム認証を進めている経緯について述べました。加えて、人権や職場の権利、ガバナンスを重要視していることに触れ、認証を受けたMSだけではなく、システム全体をコントロールするためのツールとしてKOREを使用している、とまとめました。
最後に、WG主査2名及びJABマネジメントシステム研究会メンバーから、TDK株式会社 森下 裕一氏、アサヒビール株式会社 舟木 敦氏が加わり、中條教授をコーディネーターとした質疑応答が行われました。講演内容に対する質問とその回答が示されるとともに、会場参加者と意見交換が行われました。
参加者の皆様には、この場を借りまして厚く御礼申し上げます。
以上
本件に関するお問い合わせ先
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総務部 CS
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