「持続可能性への挑戦」講演会~2020に向けて認定・認証制度の活用を考える~ 開催報告

2015年9月8日
公益財団法人 日本適合性認定協会
 

 本協会は、2020年東京大会を日本国内に広く「認定・認証制度」を定着させる好機と捉え、プロモーション活動を実施する計画です。

その一環として、2012年ロンドン大会の開催運営に大会組織委員として深く関与し、また2016年リオデジャネイロ大会のスーパーバイザーを務めたDr. JonesがNPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット様の招聘に応じて来日されるのを機に、氏を講師に迎えロンドン・リオ両大会での「認定・認証制度」の活用状況と2020年に向けての提言を聞く講演会を実施いたしました。

大会運営に直接係った方からの講演ということで、本来、対象とした認定・認証制度関係者のみならず、報道機関、関係省庁、環境NPOからも参加希望があり会場は満席になりました。加えて、予定時間をはるかに越えるほど多くの質疑応答がなされるなど関心の高さが伺われました。

ついては、2020年東京大会に関心を持ちながら当日の講演会に参加できなかった多くの皆様に、是非、当日の講義内容を知っていただきたいと考え、本協会ウェブサイトに講演録を掲載いたします。 
 

開催概要

主催   :公益財団法人 日本適合性認定協会
共催   :NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット
日時   :2015年8月11日(火)10:00~12:00
会場   :日本適合性認定協会 大会議室
参加費:無料
講 師  :Dr. Mervyn Jones(Director at Sustainable Global Resources Ltd)
 

講演概要

※当日使用したスライドはこちらからご覧いただけます(PDF 2.2MB)
 

イギリスがオリンピックを持続可能なイベントと定義づけた経緯

スライド3>オリンピックは一過性のイベントですが、2012年ロンドンオリンピックでは、イベント成功後にもlegacyレガシー[遺産]として、投入された多くの資源・金額に見合う価値を残したい、と準備段階から念頭に置いていました。開始・計画・導入の3プロセスをしっかり取り組むことで、悪い環境影響を予防し、廃棄物や無駄の予防、資材消費量削減等や、終了後の再利用にも焦点を当てることとしました。 

ロンドンの経験

スライド6>開催前にまずオリンピックに影響を与える可能性のある重要なものを列挙し、それらを1) 直接コントロールできるのか 2) コントロールできなければ影響を及ぼせるか3) いずれもできない場合はコントロール不可と判断する、としました。全てを管理することは到底できないので、重要度に応じてプライオリティを付け、管理するというアプローチ方法を取りました。

スライド7>2つの委員会が合意した4つの理念(原則)は、「透明性」「完全性」「管理すること」「社会的な包括性」です。

スライド8>掲げた原則の多くは過去のオリンピックでも前例がなかったため、さまざまな利害関係者との対話・協議を行い、自分達でガイダンスを工夫して創り上げていきました。

スライド9>オリンピックのような複雑なサプライチェーンに対応するには、単一の規格では不可能であると考え、イギリス規格BS8901を活用するとともに、新たなイベントマネジメントシステム国際規格(ISO 20121)開発へと至りました。

スライド10>新しい規格の策定と活用においては、調達の側面に持続可能性を取り入れることを重要視しました。それには4つの意味がありました。
・製品・サービス自体の持つマイナスの影響を最小化する。
・資源の必要性を最小化する。
・サプライチェーン自体がもたらすマイナス影響を最小化する。
・契約締結時に公正な条件を確実につくること。

スライド11>調達方針を策定したのち、Step1 サプライヤーの登録/Step 2 適格性の確認/Step 3 入札の3つのステップを設定しました。

スライド14>物品調達方法について、サプライヤーに向けた5つの質問を設定しました。
1) どこから来たのか? 2) 誰が作ったのか? 3) 何から出来ているのか? 4) 何に包装されているのか? 5) 終わったあとにどうなるのか?
これらの質問に対する回答から、組織委員会はある程度、サプライヤーの持続可能性に対する理解度を見分けることができました。
また、調達用規範に基づいて、印刷、木材、食品等それぞれ当てはまる規格が用いられました。イベント業界向けのサプライヤーであれば、組織委員会はBS8901、ISO 20121の認証取得を期待しました。一方、非イベント業界ならば、例えばISO 14001やISO 9001、OHSAS 18001等が、より的確な場合もある、としました。

スライド15>オリンピックでは、廃棄物の44%は食品であると言われているため、別途「フードビジョン」という考え方を創り上げました。産業界、NGO、政府機関、標準化団体も含んださまざまなステークホルダーと協議しながらの策定でした。運用期間が必要だったことから、オリンピック開催よりも4~5年前に策定しました。

スライド16>ロンドンオリンピックで実現できた持続可能性の例として、
・廃材の98%は再利用され、新しい発展に繋がった
・炭素発生量の制御、資材節減、2万台のダンプカー使用の回避(大気汚染の回避)等も可能となった
・建設をする際にできるだけ再生材を使用するというリーダーシップが生まれた
組織委員会はかなり早い時期から廃棄物処理業者を指定し、資材提供者と組織委員会が打合せする際には、処理業者も含めてリサイクル方法の議論を行っていました。

スライド17>ロンドンオリンピックを持続可能なものとするためには、低炭素への取組みが不可欠で、開催4~5年前から、ベンチマークやさまざまな聞き取りを行い、いかに低炭素のイベントにするかを検討しました。オリンピック組織委員会は、サプライチェーンや設計担当者に対して低炭素や資材削減を働きかけました。

スライド18>組織委員会が全てのカテゴリで漏れなく手を打つことは不可能なため、カーボンホットスポット(CO2排出量に大きく影響を及ぼすのはどこなのか)の洗い出しを行いました。

スライド19>その後、これらをどのように抑制していくかを検討し、「カーボンオフセット戦略」を立てました。 

リオに向けた準備作業

スライド24-25>リオ2016調達戦略もロンドンと非常に似通っています。ロンドン・リオ両都市に共通なのは、オリンピック開催プロセスの中で規格や認証を非常に強く組み込んでいった点です。

スライド26>研修も重要です。イギリス政府は、ロンドンオリンピックで学んだことをリオに受け渡す(共有する)とブラジル政府に約束しています。  

東京への提言

 スライド27-28>東京2020に向け、残された準備期間をどう活用するのかについて、提案・ヒントをお話します。
ISO 20121に書かれている要求事項を鑑み、東京2020で念頭に置くべき事項を紹介すると、
・東京の持つ課題は独自のものであり、東京2020に関わるステークホルダーと話し合い、さまざまな課題の洗い出しを行う。
・できるだけ早い段階で持続可能性に関するコミットメントを出し、サプライヤーに示す。
・“SMART”(5つの目標設定)を満たし伝達することが重要
     S:Specific 具体的な
     M:Measurable 測定可能な
     A:Achievable 達成可能な
     R:Realistic 実現可能な
     T:Time bound 時間的な締切の明確化
・スタッフに対する持続可能性に関する研修

スライド29-31>マネジメントシステムはシームレスに調達プロセスに統合させていくことが必須です。最初に課題の洗い出しを行い、目的を明確化し、ターゲットを設定し、達成度合いを測る尺度を作り、実際に望んだものが達成できたかが明確にわかる、という流れで進めます。
東京の組織委員会が5年間かけて成熟し、さまざまなことを学んでいくことを期待しています。
 

質疑応答(一部)

Q1:
スライド14 にある5つの質問に対し、サプライヤーは物品調達の方法について自己申告で回答してくると思われますが、どのように回答の正当性を確認するのでしょうか。

A1:
回答を見て、サプライヤー自身が持続可能性を信じているか否かを判断基準としました。信じているレベルによって、値段や影響度が高い場合は、慎重にアプローチします。持続可能性をどの程度理解しているのか不明のまま、製品・サービスが提供されてしまうことを避けるため、組織委員会とサプライチェーンが緊密な連携を取り、環境配慮型製品とするための工夫を協議していきます。

Q2:
カーボンオフセットの観点で進めた取組みのポイントは。

A2:
カーボンオフセットは、より広い概念であるカーボンフットプリントという戦略のごく一部の要素だと考えています。戦略のトップは、いかにCO2の発生を予防するか、です。
一方、カーボンマネジメントの観点で重要なのは輸送・運輸です。組織委員会と専門家、運送業者が集まり、インフラ整備と緊密な連携を取りながら、CO2発生を抑えるための輸送手段を検討しました。しかし、輸送関係の排出量をゼロにすることは不可能なため、大手石油会社BPが構築している認定されたカーボンニュートラルスキームを活用し、個人もしくはスポンサー企業等が自らのカーボンフットプリントを算出できるよう、算定式をオンラインで無料公開しました。

Q3:
今回、調達条件にかなりISOが入ってきていますが、国際調達の関係から国際規格が取り入れられたのでしょうか。

A3:
オリンピックの場合でもヨーロッパ、イギリスの調達に関わる法律を遵守する必要がありました。組織委員会は、イベント会場や開催場所の建設をする企業に対して、ISO 9001、14001、あるいは同等の認証取得を条件に課していました。全ての業者に要求したわけではなく、分野ごとにサステナビリティの重要度の観点から上・中・下の3カテゴリに分類し、各々に適切な規格等を示し、課すというものでした。
 

講演するDr. Jones


以上

本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 日本適合性認定協会
総務部 CS
E-mail. CS@jab.or.jp
Tel.03-3442-1210 Fax.03-5475-2780

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