「週刊東洋経済」連載記事を公開(第一回 経済産業省)

2018年4月9日
公益財団法人 日本適合性認定協会


昨年11月から今年2月、四回にわたって週刊東洋経済誌に連載した記事をJABウェブサイト上で公開いたします。
第一回~第四回までを順次、アップロードしていく予定です。
なお、掲載期間はそれぞれ掲載日から1年間となっておりますので、ご興味のある方は早めにご覧いただきたく、お願いいたします。
 

第一回【日本の国際競争力向上へ  世界で勝つ「標準化戦略」とは】

 

日本のものづくりの指針になってきた工業標準化法(JIS法)について、1949年の施行以来、約70年ぶりの大幅改正が検討されている。なぜ今、国が「標準化」の大きな制度刷新に踏み切ったのか。欧米諸国や中国が力を入れる「標準化」とは、ビジネスに、また社会全体にどのような意味を持つのか。そして、標準と切り離すことのできない認証や認定という第三者証明の価値とは。全4回にわたって、この分野に知見の深い方にご登場いただき、その答えを探る。第1回となる今回は、標準化、基準認証の所轄官庁である経済産業省の末松広行氏に、法改正の意義と、日本の産業の現状について伺った。

                  末松 広行 氏

福島 工業標準化法が1949年の施行以来、70年ぶりに大幅な見直しが検討されています。検討に至った背景と意義、それが日本企業の国際的な競争力強化にどうつながっていくのか教えてください。

 今、経済がグローバル化する中で、国内の市場は人口減少社会を迎え、日本企業は海外市場に自社製品を売り込むことが必要になっています。国内の取引では、企業同士の信頼関係に基づいてビジネスを進める文化がありました。しかし、欧州の市場統合、WTO/TBT協定など環境が変化する中、海外との取引でカギとなるのは相手との信頼関係だけではなく、決められた国際規格、つまり国際標準に基づいた製品を納められるかどうかです。さらに第四次産業革命を迎え、あらゆる製品やサービスがインターネットにつながる時代に入りつつあります。電力や通信などのつながる技術や新しいイノベーションには、標準化が不可欠であり、標準化の重要性は増大しています。こうしたことを背景に、工業標準化法の範囲を鉱工業品、つまりモノの関係だけでなく、サービス分野にも拡大することを検討中です。また、規格の決め方について、これまでは業界のコンセンサスを国の審議会で議論して担当大臣が決めてきました。今後は民間主導で作られた標準に、国がお墨付きを与える仕組みを追加しようと考えています。すでに欧米では、民間主導で標準が作られています。今回の制度の見直しにより、欧米の良いところをうまく取り込み、日本企業の産業競争力の強化に貢献できればと考えています(注1)。

福島 これから日本企業がグローバル市場で勝ち残っていくためには、標準化戦略が非常に重要ということですね。今回の法改正は、標準化のプロセスが変わる大きなきっかけになると思いますが、経営者にはその意識が希薄なようです。企業の経営層にも、意識改革が必要ではないでしょうか。

末松 まさにそうです。さまざまな国の企業が交わるグローバル市場では、良い製品であっても、それを証明しなければビジネスが拡大しません。欧米企業は、ビジネスに関係する国際標準の策定に自ら関わり、国際標準の規格に合った製品を作り、認証を受けて品質をアピールすることで市場での優位性を確保しています。各企業が自ら、標準化を事業戦略として活用する時代になってきたということです。すでに日本企業にも、いくつかの成功事例があります。たとえば「QRコード」。開発したのは大手部品メーカーですが、特許権の内容をJIS/ISOで規格化した上でオープンにした、つまり、規格に基づいていれば無償で誰でも使えるように提供したため、社会全体の利便性が向上しました。その企業は「QRコード」市場を拡大し、さらに読み取りの技術を売るという戦略を取って、利益を得ています。自社の得意分野を活用して社会に役立つ「損して得取れ」戦略を、経営レベルで認識することが必要なのです。経済産業省もこうした成功事例を整理しながら、日本企業に標準化戦略で成長できるよう働きかけを強めています。

福島 他にも自動車業界では、欧米や中国で環境規制が厳しくなり、新たに販売する車には一定の割合でエコカーを入れるというルールが生まれました。残念ながら、そのエコカーの定義から、日本企業が得意とするハイブリッド車は除外されています。競争ルールが変わることで、企業のポジションが大きく変化してしまうおそれがありますね。

末松 ルール変更は、技術革新によるものと、雇用、経済発展、自国資源の活用といった環境の変化によるものなどのパターンがあります。そうした情勢の変化について、国同士で議論することが大切です。たとえば、「エコカーの定義」のような規格があれば、「何がエコカーか?」、「エコカーの性能をどのように測るか?」など、さまざまな議論があり得て、そうした議論に参加することで、日本企業が実際に展開しているエコカーの性能を、国際的にも認めさせることができるのです。いずれにせよ、ルールをどう変えるかという国際的な議論に、企業が事業戦略として積極的に参画することが非常に大切だと思います。

福島 製品そのものや、製品の性能を試験する方法などの、さまざまな視点から標準化を進めることで、結果的に自社製品が国際競争力を得て、有利にビジネスを進めることができるわけですね。

                  福島 敦子 氏

末松 特に試験方法の標準化は重要です。たとえば、新潟の中小企業が開発した、逆流を防ぐことにより液体の酸化を防ぐ容器があり、大手の醤油メーカーで採用されています。この場合、容器の中の液体の酸化をどれくらい防止しているか、という試験方法を標準化したことにより、市場が大きく広がりました。こうした試験方法の標準化は、これから日本の企業がグローバルに進出するとき役立つ「日本企業の伸びしろ」として、強く推進していきたいと考えています。また、中小企業の標準化への取組みについては、地方の金融機関や自治体などの支援により、市場拡大のツールとして標準化を活用した成功事例が生まれ始めています。メーカーにとって、製品の販売先は日本国内に限りません。グローバルに展開し、世界に販路を拡大できれば業績は飛躍的に伸びます。標準化はそのきっかけになり得ると考えています。企業の経営者の方々にも、技術開発や特許だけなく、市場拡大のツールとしての標準化をぜひ認識していただきたいです。

福島 中小企業の経営者には、自社の製品は国内マーケット向けだと考え、国際標準化に距離を置く方も多いでしょう。標準化戦略を巧みに使った実例を教えてください。

末松 大手飲料メーカーが、日本では1960年代からある乳酸菌飲料というジャンルを、2000年から10年ほどかけて国際標準化した例がわかりやすいでしょう。今では乳酸菌飲料は、欧州のスーパーでも清涼飲料の棚ではなくヨーグルトなどの発酵乳と同じ棚に置かれ、世界中で市場が拡大しています。また、保冷状態で荷物を運ぶ「小口保冷配送サービス」は、これからの標準化を考える上で面白い事例です。今、日本の農産物がアジア諸国から認められ、輸出が拡大しています。たとえばシンガポールに住む方に、宮崎県産のマンゴーを送る場合、農家はマンゴーを宮崎空港まで保冷配送サービスで送ります。空港には保冷施設がありますが、シンガポールに着いてから、目的地まで保冷状態で運ぶというルールは定められていません。そこで、保冷配送サービスの規格を決め、それにのっとって運べば、鮮度の保たれた美味しいマンゴーを届けることができるようになります。そのビジネスに日本の企業が進出できれば理想的ですが、そうでなくとも、日本の農産物輸出や日本の物流秩序がアジアで標準化されることで、新たなビジネスの可能性が広がるでしょう。

福島 標準化の重要性はよくわかりました。しかし何年もかけて標準化を獲得するためには、人的、金銭的資本が必要です。大企業でもハードルが高い取り組みですから、リソースが限られている中小企業ではなおさらです。そのために経済産業省も、専門家の資格制度を設けて人材育成面をサポートされていますね。

末松 はい、人材育成は非常に重要です。まず、私や担当管理職が企業や業界団体を訪問し意見交換を行い、標準化を担当する役員クラスの方、CSO(Chief Standardization Officer)と呼ばれる人材を企業に配置していただくよう働きかけています。現在70社くらいまで拡大しています。また、標準化を担う専門家向けの研修制度を設けたり、大学と連携して人材を育成する取り組みを始めています。さらに、中堅・中小企業等における標準化の戦略的活用について、全国の自治体、金融機関、大学、公的研究機関、弁理士等の方々の協力を得て、きめ細かく専門的に支援する制度を設けています(注2)。

福島 日本人は「ルールは決められているもので、それに従わなければいけない」という感覚を持つ人が多く、自社に都合の良いルールに変えていこうという意識が低いですね。特に国際的な市場獲得のために積極的にルールを作ろうという意識が、欧米とくらべ希薄な気がします。

末松 そうした根本的な意識を変えて国際競争力を獲得するため、標準化戦略が必要です。まずは国際的なルールが変わる時、積極的に議論に参加することから始まります。その姿勢が自社に有利なルール策定につながり、国際市場における競争力強化に資するとともに、すべての人が規格化された商品・サービスを安心して、かつ安全に利用できるようになります。こうして最終的に、標準化が「より良い社会」を実現する一助となるのです。高い技術力を生かして良い製品を作るという日本企業の長所を、ビジネスに、そして社会全体の利益になるように活用したいですね。

(注1)
産業構造審議会産業技術環境分科会基準認証小委員会答申
(今後の基準認証の在り方ールール形成を通じたグローバル市場の獲得に向けてー)
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20171011001_1.pdf
(注2)
【“標準化・認証”を事業に活かす虎の巻】
http://www.meti.go.jp/policy/standards_conformity/files/toranomaki_set.pdf
【標準化活用支援パートナーシップ制度】
http://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun/partner/index.html



 
末松 広行氏
すえまつひろゆき/経済産業省産業技術環境局長
埼玉県出身。1983年東京大学法学部卒業後、農林水産省へ入省。国土防災、金融、食糧、地方勤務、漁業交渉などを担当。内閣官房内閣参議官(総理官邸(小泉政権))、農林水産省大臣官房政策課長、林野庁林政部長、農村振興局長等を経て2016年から、初めての局長級人事交流で、経済産業省に異動。筑波大学・神戸大学客員教授、著書に『食料自給率の「なぜ?」』(扶桑社)など。

福島 敦子氏
ふくしまあつこ/ジャーナリスト
津田塾大学卒。NHK、TBSで報道番組のキャスターを担当。テレビ東京の経済番組や日本経済新聞、経済誌などで、これまでに700人を超える経営者を取材。経済・経営をはじめ、ダイバーシティ・女性の活躍、環境、コミュニケーション、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。著書に『ききわけの悪い経営者が成功する』(毎日新聞社)など。

 

[関連リンク]

第二回:デロイトトーマツコンサルティング 羽生田 慶介氏
第三回:東海大学 宮地 勇人氏
第四回:CYBERDYNE 山海 嘉之氏


本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 日本適合性認定協会
事業企画部 広報
E-mail. PR@jab.or.jp
 

ページの先頭へ戻る