「週刊東洋経済」連載記事を公開(第二回 デロイトトーマツコンサルティング)

2018年4月16日
公益財団法人 日本適合性認定協会


昨年11月から今年2月、四回にわたって週刊東洋経済誌に連載した記事の第二回をアップロードいたします。
なお、掲載期間は掲載日から1年間です。
 

第二回【日本企業が世界に勝つために 「スタンダード×レギュレーション戦略」が必要だ】

 

日本企業のグローバル展開が進む中、国際競争力確保のために求められる「標準化」とは何か。そして「標準化」を戦略として推進するため、企業に必要な考え方とは。全4回にわたって、この分野に知見の深い方にご登場いただき、その答えを探る。第2回の今回は、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員の羽生田慶介氏に、日本企業のグローバル展開をコンサルティングする中で感じた、日本企業が意識すべき「スタンダード×レギュレーション戦略」の重要性について伺った。

                  羽生田 慶介 氏

福島 羽生田さんは通商・国際ルールのエキスパートとして、官民のルール形成、ロビイング活動を支援されてきました。ビジネスにおいても積極的にルール形成に携わる必要性を説かれていますね。ビジネスにおけるルールとはどういったものなのか、まずはその定義について教えてください。国が作る法律と、民間主導で作られるルールは、どう違うのでしょう。

羽生田 一般にルールという言葉には「何かを取り締まるもの」というイメージがありますが、ビジネスが目指すルール形成は「物差し」を作ることです。たとえば企業が新たな技術を開発したとき、その評価は技術の良し悪しを決める基準によって左右されます。それが商品の売上、ひいてはビジネスの成功に直結するため、ルールが重要視されているのです。ルールは、法律の制定、改定など大掛かりなものとイメージが近いため企業から敬遠されがちですが、たとえば民間企業に身近な「調達ガイドライン」もルールの一つです。ルールは、英語での整理では「スタンダード」と「レギュレーション」に分けられます。前者を日本語にすると「標準」、後者は「規制」。この整理を正確に行い、どちらをどのように攻めるべきか明らかにすることが、討議の第一歩です。

福島 2013年に閣議決定した「日本再興戦略」の中では、日本企業の国際競争力を高めるために「スタンダード」と「レギュレーション」を掛け合わせる戦略が挙げられました。これはどういうものなのですか。

羽生田 その標準(スタンダード)に適合することで、どんな規制(レギュレーション)をクリアできるのか、つねにセットで考えることが「スタンダード×レギュレーション戦略」です。これによって、日本企業が高い技術力を生かしきれず国際市場で優位に立てない現状に、一石を投じることができるのです。たとえば日本発の技術が国際標準を獲得すると、「日本の製品がグローバルスタンダードになった」と大々的に報道されます。しかし、その製品がISO(国際標準化規格)を取っただけでは、ビジネスは拡大しません。そのスタンダードに準拠していなければ「重要な市場において優遇されない」「お客様に選ばれない」というようなレギュレーションと組み合わさることで、初めてビジネスインパクトにつながるのです。この閣議決定は、「スタンダード」または「レギュレーション」単体ではなく、二つを紐付けて戦略を立てることの重要性が国レベルで明らかにされた証です。

福島 スタンダードを作るとともに、それが自社に有利に働くようなレギュレーションを作る必要があるのですね。

羽生田 ただしもう一つの方法として、順序を逆に考えた「レギュレーション×スタンダード戦略」もありえます。環境規制などのビジネスに影響を与えるレギュレーションがあるところに対し、新たなスタンダードでその条件づけをデザインする考え方です。実際に、省エネ機器を作っている日本企業がベトナム政府と協働し、ISOを書き換えることに成功しています。

福島 自社の商品・サービスが国際ルールに適合していることを証明する手段として、「認証制度」があります。その重要性について教えてください。

羽生田 製品・サービスが、標準など特定の事項に適合していること(適合性)を、他の機関が明らかにし保証することが「認証制度」です。ルールと認証は、いわば車の両輪のような役割を果たしていて、双方がそろって初めて製品の品質を保証できるわけです。さらに、その認証機関の能力を中立的な立場の第三者機関が審査(認定)することで、適切な認証が行われたことを立証します。この仕組みによって認証の信頼性が担保され、安心かつ安全な製品・サービスの展開に役立っています。この部分で、適合性認定機関は引き続き重要な役割を果たすでしょう。

福島 ビジネスにおける「ルール」についてよくわかりました。実際にルール変更によって、日本企業が技術的に有利にある製品が、国際市場で不利に追いこまれた例もありますね。


                  福島 敦子 氏

羽生田 はい。欧米や中国の環境規制により注目を集めているエコカーが、その代表例です。ルール変更によってエコカーの定義そのものが変わり、日本企業が強みとしてきたHV(ハイブリッドカー)は枠外に追いやられ、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッドカー)がエコカーの主流となりました。ここから、世界中で「エコカー市場のメインはPHVだ」という潮流が生まれ、日本企業の強みだったはずのHVが世界の消費者から支持されづらくなってしまったのです。実際、エコカー市場における日本企業のシェアは落ちてきています。

福島 日本企業が国際ルール形成に積極的に関与していたら、HVをエコカーとして認めさせることも可能だったのでしょうか?

羽生田 その可能性はあったでしょう。現在は、時にガソリン車よりも条件が悪い「HV包囲網」とも言える状況も生じていますが、少なくともその状況は回避できたかもしれません。欧米諸国の多くは植民地支配の時代から、ルールを一から作りながら市場を広げてきました。一方、日本は1980年代のリクルート事件以降、企業が政治に接近するのは危険だという思想が広まりました。本来、企業は政治と一定の距離を置いてリスク回避しながらも、ルール形成をビジネス戦略の一環と捉えて、行政にもっと早くから働きかけていくべきでした。

福島 大企業にとっても、ルール形成に携わることは大きな負担となります。グローバル展開を検討している、中小企業やベンチャーにも関与する方法はあるのでしょうか。

羽生田 認証を取得するためには、人材育成や情報収集にかかる費用、認証機関に支払う費用など、さまざまなコストが発生することは避けられません。しかし、企業の規模に関わらず、ルール形成の第一歩は「自社の何を褒められたいか?」です。ルール形成戦略とは、本来は事業戦略・マーケティングのテクニックの一つです。マーケティングの根幹である、「自社の何を褒められたいか」を特定できれば、それが自然と認められるような物差しを作ればいいのです。幅広い事業分野・製品を抱える大企業よりも、アピールする製品をクリアにしやすい中小企業やベンチャーのほうが、実はルール形成に向いていると思います。

福島 経営層に、ルール形成戦略とは企業の事業戦略そのものだという考えが必要です。技術部門に一任するだけではなく、経営者のリーダーシップが求められますね。

羽生田 日本でも、先進的な企業の経営層は、ルール形成に積極的に関わっています。しかし、経営者と標準化担当者との距離の大きさは根深い問題です。経営層は、良いものを作れば売れるという思想から抜け出す必要がありますし、技術部門や知財担当者も、経営視点で捉える必要があると思います。たとえば、標準化やロビイングの効果を、定性的な意義だけでなくP/L(損益計算書)の数字インパクトとして伝える取り組みも、一つの手法でしょう。

福島 何も、ルール形成は一社単独で行うものとは限りません。利害関係が一致する同業他社や取引先といったステークホルダーを巻き込むことや、外部サポートの活用も大事ですよね。

羽生田 はい。政府の中にも企業を支援する機関があるので、ぜひそうした外部サポートを有効活用してほしいです。少し奇をてらった言い方に聞こえるかもしれませんが、今後日本企業は、ルール形成に際して「言ったもの勝ち」の考え方を基本に据えるべきだと考えています。自社にしか利益をもたらさないような提案は、そもそも世界で認められません。「言ったもの勝ち」から始まり、自分たちの提案を国際市場で議論してもらって、最終的に成立すれば良いのです。

福島 良い製品を良いと認め、企業を評価するルールが必要です。それは企業のみならず、多くの消費者にも恩恵がありますね。

羽生田 ルール形成戦略は結果として自社の利益になるだけでなく、安心・安全な社会を実現する一助となり、社会貢献の一つとして結実します。中小企業やベンチャー企業も、臆せずに自社の強みを世界へ主張できる風土を作ることが必要で、まずはその重要性を広く認識してもらいたいと考えています。



 
羽生田 慶介氏
はにゅうだけいすけ/デロイト トーマツ コンサルティング執行役員
国際基督教大学卒。経済産業省 通商政策局にてアジアFTA交渉を担当。キヤノン、A.T. カーニーを経てデロイト トーマツ コンサルティングに参画。国際通商動向に関するテレビ・雑誌・新聞等での識者コメント多数。多摩大学大学院ルール形成戦略研究所客員教授。著書に『最強のシナリオプランニング』(共著:東洋経済新報社)、『世界市場で勝つルールメイキング戦略』(共著:朝日新聞出版)など。経済産業省「新たな基準認証の在り方研究会」委員。

福島 敦子氏
ふくしまあつこ/ジャーナリスト
津田塾大学卒。NHK、TBSで報道番組のキャスターを担当。テレビ東京の経済番組や日本経済新聞、経済誌などで、これまでに700人を超える経営者を取材。経済・経営をはじめ、ダイバーシティ・女性の活躍、環境、コミュニケーション、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。著書に『ききわけの悪い経営者が成功する』(毎日新聞社)など。

 

[関連リンク]

第一回:経済産業省 末松 広行氏
第三回:東海大学 宮地 勇人氏
第四回:CYBERDYNE 山海 嘉之氏
 

本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 日本適合性認定協会
事業企画部 広報
E-mail. PR@jab.or.jp
 

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