「週刊東洋経済」連載記事を公開(第三回 東海大学)

2018年4月23日
公益財団法人 日本適合性認定協会


昨年11月から今年2月、四回にわたって週刊東洋経済誌に連載した記事の第三回をアップロードいたします。
なお、掲載期間は掲載日から1年間です。
 

第三回【認定制度の導入で日本の医療を「世界が認める」医療に】

 

少子高齢化が進む中、日本最後の成長産業として期待される医療。「医療領域で日本企業が競争力を発揮するためには、国際的な規格や標準化への対応が不可欠」と語るのは、東海大学医学部教授でISO/TC212(臨床検査と体外診断検査システム)国内検討委員会委員長も務める宮地勇人氏だ。本シリーズは全4回にわたり、国際競争力確保のために求められる「標準化」や、企業に必要な考え方を聞く。第3回となる今回は宮地氏に、医療分野における国際標準化の動向や将来展望などについて伺った。

グローバル化時代を迎え医療分野も国際標準化が進む 

                  宮地 勇人 氏

福島 日本は少子高齢化がますます進み、人口減少時代に向かっています。各マーケットが縮小傾向にある一方、医療、バイオや介護の領域は「最後の成長産業」とも言われます。海外に目を向ければ、日本の医療機器やサービスをグローバルに事業展開することも大きな可能性がありそうです。医療分野における「標準化」は今、どのような意味を持つのでしょうか。

宮地 一口にグローバル化と言っても、その定義はまちまちです。共通した定義は「モノ、サービス、資本、人材、情報、知識、技術などのさまざまな人の営みが、国家の枠組みを超えて地球規模で交流または移動すること」で、その背景として交通や通信、テクノロジーの進歩があるとされます。健康と医療は、国や制度にかかわらず全人類の共通の価値ですから、高い技術力を持つ日本企業が世界に進出して実力を発揮できる可能性は大きいのです。

中でも、治療薬や診断薬などはグローバル化しやすい領域です。国境を越えてモノやサービスを取引するためには、その品質を担保する必要があります。その方法の一つが、国際標準化機構(ISO)の規格です。

福島 医療技術は刻々と進化し、新しい製品やサービスも生まれています。医療のグローバル化が進む一方で、環太平洋経済連携協定(TPP)などに関連する議論や交渉も続いています。その中で、宮地先生が携わっていらっしゃる臨床検査のグローバル化とは、どのようなものなのでしょうか。

宮地 医療保険制度は国によって異なり、また医療はサービス産業の側面もあるため、すべての国で一律に同じ規格を導入するのは難しいでしょう。ただし、臨床検査や検査室の運営は、制度の違いにかかわらず国際化・標準化を進めるメリットがとても大きいのです。医師が患者の治療において得られる情報には大きく「問診」「診察」「検査」の3つがあり、かつては「問診」と「診察」が中心とされていました。

しかしそれでは病歴と身体所見程度しか把握できないため、最近では、身体内部の変化なども含めて客観性の高い情報を大量に得られる「検査」を重視する医師が増えてきました。診断、治療、入退院といった医学的判断のうち、約70%が臨床検査で決まると言われています。この臨床検査の重大性は、今後ますます増すでしょう。その点でも、臨床検査の国際化・標準化が必須になります。
 

ゲノム情報を用いた医療には臨床検査室の品質がさらに重要に

福島 国際的な枠組みの中で医療サービスを提供するためには、病院や検査室においてグローバルに対応した各種認証・認定の取得が必要になるということですね。これまで、医療の標準化、特に臨床検査室の認定はどのように進められてきたのでしょうか。

 

宮地 欧米では早くから臨床検査の重要性が認識され、第三者機関による臨床検査室の認定も実施されてきました。アメリカでは米国病理学会(CAP)の臨床検査室の認定プログラムが利用されています。欧州では2003年にISO 15189(臨床検査室ー品質と能力に関する特定要求事項)が発行され、検査室の認定ツールとして普及しています。日本では2005年からISO 15189の認定がスタートしました。ただし国内における認定数はまだ120程度で、インドや中国、タイなどのアジア諸国や南アフリカにかなり遅れをとっています。

日本で認定が進まない一番の原因は、日本では臨床検査の品質が高いところが多く、わざわざ第三者の認定を受けて品質を証明する必要がないとの認識があったことです。さらに、医療保険制度のインセンティブも当初はなく、全体的な取り組みが遅れました。

福島 欧米の後塵を拝する日本ですが、今後、国内でISO 15189などの認定制度は普及していくのでしょうか。

宮地 進んでいくでしょうし、進めていかなければならないと考えています。前述したように医学的診断における臨床検査の重要性が増しつつある一方、検査における工程は年々複雑化しています。医師は客観的な検査結果をもとに診断・治療を行うのですが、その医療機関・施設が認定を受けていない場合、検査結果の信憑性を確認する術がありません。医療の安全性や質に対する社会的要請が高まる中で、検査の工程と精度(品質)を確保するためにも、診療機関の質と能力が問われます。ここで、第三者機関による機能評価が生きてくるのです。

さらに重要なのはゲノム情報を用いた医療への対応です。2015年1月に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律」、2016年12月に施行された改正「がん対策基本法」に基づく政策で、力を入れるとされたのがゲノム情報解析に基づいた治療法の選択や新規治療法の開発です。

                  福島 敦子 氏

福島 新規治療法には社会の関心も高く、期待が高まりますね。

宮地 しかし、ここにも課題があります。と言うのも、日本はゲノム解析やコホート研究などでは世界をリードしているものの、発症予測、予防、診断、最適な薬剤投与量の決定、薬剤の開発など、実用化においては欧米に大きく水をあけられています。特に遺伝学的検査では、医師が利用可能な検査項目数が欧米で4600以上あるのに対し、日本は144項目にすぎません。こうした課題解決に向けて、国も積極的な取り組みを進めています。アメリカでは、遺伝子関連検査を含む検査施設を認証する法規制が存在します。日本でも2017年の6月にようやく医療法の改正案が成立し、法令整備の面でも、諸外国と同じ水準に引き上げられました。これは認証・認定にかかわる常識を大きく変えた、日本史にたとえると明治維新に匹敵する出来事です。

また厚生労働省も遺伝子関連検査の品質・精度を確保するため、「遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティス・ガイドライン」(日本臨床検査標準協議会)の水準に基づく方策を策定するなど、具体的な取り組みが始まっています。
 

リスクマネジメントや検査技術の継承も可能になる


福島 遅れていた日本の医療の標準化が、法令化も含めてようやく進んできたのですね。第三者評価による認定のメリットはどのように発揮できそうですか。

宮地 医療分野の検査は、その精度いかんによっては患者の命まで脅かすことになりかねません。つねにリスクが付きまとう世界ですが、臨床検査や検査室の認定を取得することで医療の品質を担保できるようになり、その施設・組織全体の改善や効率的運営につながり、責任の明確化を図れます。より安全性の高い治療を受けられるとなれば、患者にとっても絶大なメリットとなるでしょう。

また、人材育成の観点でも大きな利点があります。これまで検査工程は、一人ひとりの検査技師の「匠の技」に依存しており、熟練した技師が退職してしまうと質を継承できませんでした。認定制度を利用すると文書化が徹底されるため、標準作業手順を明文化し整えることで、検査工程の質を継承できます。次の世代に豊かな医療技術を渡すことも、医師の使命の一つです。

福島 医療機関のみならず、メーカーなどほかの企業にとっても、認証・認定制度を競争力向上に活用できそうです。

宮地 はい。企業の皆様はどうしてもデファクトスタンダード(事実上の業界標準)を目指されますが、デファクトスタンダードはいつか必ず塗り替えられます。自社の技術をより長く広く使ってもらうためにはデジュールスタンダード(国際機関によって定められた品質標準)を目指すとともに、その策定段階から積極的に関与することが重要です。

企業がそれぞれ個別で努力するのではなく、業界全体で団結し、そして産官学が連携してデジュールスタンダードづくりに参加してほしいと願っています。
 

 

宮地 勇人氏
みやちはやと/東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学教授、医学博士
1981年慶応義塾大学医学部卒業後、水戸赤十字病院内科医員、米国シティオブホープ国立医療センター研究員などを経て2004年から現職。日本臨床検査標準協議会ISO/TC212国内検討委員会委員長、遺伝子関連検査標準化専門委員会委員長も務める。著書に『検査値ベーシックレクチャー―何がわかるかどんな時に行うか解釈と進め方』(文光堂)など。

福島 敦子氏
ふくしまあつこ/ジャーナリスト
津田塾大学卒。NHK、TBSで報道番組のキャスターを担当。テレビ東京の経済番組や日本経済新聞、経済誌などで、これまでに700人を超える経営者を取材。経済・経営をはじめ、ダイバーシティ・女性の活躍、環境、コミュニケーション、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。著書に『ききわけの悪い経営者が成功する』(毎日新聞社)など。

 

[関連リンク]

第一回:経済産業省 末松 広行氏
第二回:デロイトトーマツコンサルティング 羽生田 慶介氏
第四回:CYBERDYNE 山海 嘉之氏


本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 日本適合性認定協会
事業企画部 広報
E-mail. PR@jab.or.jp
 

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